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マイクロ波球状トカマク概念の実証

次世代エネルギー源となる核融合発電炉実現のための研究

現在、人口の急激な増加と生活水準の向上に伴って、世界のエネルギー需要は爆発的に増加し続けています。しかしながら、化石燃料に依存したエネルギー供給は二酸化炭素などの温室効果ガスの大量発生を引き起こし、最近の地球温暖化の主要原因となっています。また、化石燃料資源の枯渇も危惧されています。資源が豊富で局在せず、二酸化炭素も出さない核融合発電は次世代のエネルギー源として期待されていて、20世紀後半から世界中で精力的に研究が進められてきました。そして世界三大トカマク(TFTR(米国)、JET(ヨーロッパ連合)、JT-60U(日本))の実験結果を踏まえ、現在は、日本、ヨーロッパ連合、米国、ロシア、中国、韓国、インドの 7 極による国際共同により国際熱核融合実験炉 ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)をフランスに建設中です。ITER は 2025 年から実験を開始し、2035 年からは重水素と三重水素を使った核融合反応による自己燃焼実験を行う予定になっています。 toward plant

しかしながら、ITER は 10 年以上前までの研究成果をもとに設計された実験装置ですので、その設計のまま将来の商業発電炉ができるというわけではありません。ITER と商業発電炉の間にあるギャップを埋めるものとして、実証プラント DEMOを作ることが考えられています。最近の研究成果を踏まえた DEMO の設計例として、低アスペクト比化(トーラスの大半径 R と小半径 a の比 R/a を小さくすること)により低磁場で高温高圧のプラズマを安定に閉じ込めることができるという低 コストな設計案(日本の VECTOR や SlimCS)があります。また、DEMO や商業発電炉では炉壁材料に ITER の数倍以上の定常的な熱・中性子負荷がかかりますが、それに耐えられる材料はまだ開発されていません。そこで、米国では FNSF(Fusion Nuclear Science Facility) として DEMO よりもコンパクト・低コストで核融合出力を得て炉壁材料や発電用熱交換・トリチウム増殖のためのブランケット開発を行う計画をたてています。そのプラズマ炉心として、低アスペクト比装置(球状トカマク)が提案されているのです。これらの低アスペクト比装置(球状トカマク)での臨界プラズマの実証はまだこれからですが、中でもキーポイントとなっているのが、従来のトカマクでは必須と言われていた中心ソレノイドコイルの除去ないしはスリム化です。それはプラズマに流すトロイダル電流を電磁誘導ではなく、別の方法で駆動することを意味します。核融合反応が起こるような高温高圧のプラズマではブートストラップ電流と呼ばれる電流が自発的に流れるので問題ありませんが、最初にプラズマを着火し、電流をゼロから立ち上げ、徐々にプラズマの温度と圧力を上げてゆく時が問題となります。プラズマを加熱するための高速のイオンが閉じ込められる程度までプラズマ電流が流れれば中性粒子ビーム入射(NBI)による加熱・電流駆動もできますが、それ以下の電流では NBI も使えません。この電流ゼロから、NBI が使えるところまでどうやって電流を立ち上げてゆくか、この方法を確立することが ITER の後、DEMO、 商業発電炉と続く研究開発にどうしても必要なことなのです。

 

実験装置:低アスペクト比トーラス実験装置(Low Aspect ratio Torus Experiment)

当研究室の低アスペクト比トーラス実験装置 LATE(Low Aspect ratio Torus Experiment)装置では、電子サイクロトロン共鳴加熱により、プラズマ着火から電流の立ち上げ、球状トカマク配位の形成までをマイクロ波のみで行うことに世界で初めて成功しました。私たちはこれを「マイクロ波球状トカマク」と呼んでいます。世界で一番小さな低アスペクト比トーラス実験装置ですが、中心ソレノイドコイルの無い先進的な構造で、ITER に続く将来の核融合炉の先がけとなっています。LATE 装置の結果により、電子サイクロトロン共鳴加熱条件を満たすようにマイクロ波を入射 すれば中心ソレノイドコイル無しで電流をゼロから立ち上げ、球状トカマクを作ることが原理的にできることが実証されたのです。マイクロ波はレーザービームのように打ち込むことができるので、炉心プラズマから離れたところから安全に入射でき、核融合炉には最適な方法です。しかしながら、DEMO クラスの大型装置でも有効に機能するかどうかはまだ未知数です。現在、この方式を更に発展させることを目指して、マイクロ波球状トカマクプラズマの加熱・輸送・平衡特性について研究を進めています。
[Nuclear Fusion誌 Lab Talk]

LATE Device

 

マイクロ波による球状トカマクの形成 (詳細説明)

まずトロイダル磁場コイルと垂直磁場コイルを用いて下図左に示すような螺旋状の磁力線構造を作っておきます。そこに100kWレベルのマイクロ波を入射すると、初めは電子サイクロトロン共鳴層付近に磁力線に沿った螺旋状のプラズマが発生します。そしてすぐにプラズマ中に環状のトロイダル電流が流れ始め、プラズマの圧力の増大とともに増えてゆきます。このプラズマ電流の発生により磁力線は閉じた(容器と交差しない)構造となり、核融合プラズマの閉じ込めに使われるトカマク配位となります。この様に当研究室ではマイクロ波だけで球状トカマク配位の形成が可能であることをLATE装置において世界で初めて原理実証しました。更にこの起動方法を将来の核融合炉へ適用するために実験に基づいた理論モデルの構築を目指しています。また、最初の螺旋状の磁場構造からトーラス状の閉じた磁場構造に変化してゆく過程は、プラズマの電磁流体力学的な性質だけではなく、マイクロ波により加熱された高速電子の生成とそれが生み出す電流・磁場との複雑で非線形な運動論的相互作用によって支配されていると考えられます。その特異な物理機構を明らかにするために、磁気的、光学的な測定の他、マイクロ波帯やX線領域の計測も行って総合的 な研究を進めています。

Formation of Sperical Tokamak by Microwave

 

トロイダルECRプラズマの平衡形成

一方、1kWレベルのマイクロ波入射では、電子サイクロトロン共鳴層に沿って縦に伸びた(円筒状の)トロイダルECRプラズマが生成・維持されます。この縦長のプラズマを維持するために、プラズマ中には図に示すような電位構造が自発的に現れて平衡を維持します。このプラズマはトロイダル磁場のみが印加されている下で生成されていますが、この基本的な磁場配位において、プラズマの平衡がどのように維持されているかはこれまで検証されていませんでした。当研究室では、静電プローブによる詳しい測定を行って、プラズマの生成・加熱と平衡維持が”自動的”に矛盾なく形成されていることを初めて明らかにしました。現在は、その複雑な形成過程を説明する理論モデルの構築のために、更に詳しい実験研究を進めています。

Toroidal ECR Plasma

 

イオンビームプローブの開発

プラズマ中の電位構造は、上記の低電力(1kWレベル)の実験で示されるように、粒子の輸送・閉じ込めと密接に関連しています。 100kWレベルのマイクロ波入射により球状トカマクを形成する過程においても、プラズマ中の電位構造はプラズマの輸送・閉じ込めに大きな影響を与えていると思われます。しかしながら、高温のマイクロ波球状トカマクでは静電プローブによる計測はできません。そこで、イオンビームプローブを用いてマイクロ波球状トカマク中の電位構造を計測するための開発を行っています。イオンビームプローブでは、プラズマ外部から入射した1価のイオン(例えばK+やRb+)がプラズマ中で電離され、2価となって出てくる際のイオンのエネルギー変化を調べることで、電離点位置での電位を知ることができます。この方法によれば、大電力(100kWレベル)の下での球状トカマク形成においてもプラズマに影響を与えることなく電位を測定することができます。

Ion Beam Probe